「転移」「逆転移」は、精神分析を学ぶうえで欠かせない重要な用語です。
精神分析では、クライエントが抱える問題そのものについて話し合うことだけでなく、治療者とクライエントのあいだで実際に生まれる関係性そのものが、クライエントを理解する手がかりになると考えます。この「関係性を手がかりにする」という視点は、精神分析に限らず、多くの心理療法で重要視されている考え方でもあります。そのなかでも代表的な現象が、転移と逆転移です。
この記事では、転移と逆転移について詳しく解説していきます。
- 転移と逆転移とは?その違いとは?
- なぜ転移が起こるのか、陽性転移と陰性転移とは何か
- 逆転移の捉え方が「治療の妨げ」から「理解の手がかり」へと変わってきたこと
- ひとつの場面で転移と逆転移がどうつながるか
転移と逆転移の違い
転移は、クライエントが過去の大切な人(親など)に向けていた感情や期待を、知らず知らずのうちに目の前の治療者へ向けることです。
逆転移は、その反対に、治療者の側にわき起こる感情の反応を指します。
転移と逆転移の大きな違いは、感情が向かう方向にあります。

どちらも、精神分析を創始したフロイトが、クライエントとの関わりのなかで気づいた現象です。転移は治療の早い時期から注目され、逆転移は少し遅れて、1910年ごろにフロイトが取り上げました。
転移とは?
転移とは、クライエントが過去の大切な人に向けていた感情や期待を、無意識のうちに治療者へ向けることです。
転移が起こるのは、人が誰でも、これまでの人間関係のなかで「人との関わり方のパターン」を身につけているからだとされています。
このパターンは、これまでの人間関係(特に親やきょうだいなど、幼いころに関わってきた身近な人との関係)がベースになっています。
このベースには、
- 「よくできたね」と認められて育った経験
- 「なんでできないの」と繰り返し叱られた経験
- 話を最後まで聞いてもらえず、遮られたり流されたりした経験
- 困ったときにすぐ助けてもらえた経験
などが含まれます。
このパターンが、面接の場面でも治療者に対して無意識のうちに持ち込まれてしまいます。これを転移といいます。

たとえば「何を言っても否定される」という感覚を子ども時代に強く経験した人は、治療者がふつうに質問しただけでも「責められている」と感じやすいかもしれません。
これは、目の前の治療者との実際の関係だけでは説明しきれない、過去の対人関係などの影響が重なっている可能性があります。転移・逆転移は無意識や防衛機制(とくに投影)とも関連する現象です。
陽性転移と陰性転移
転移には、向けられる感情が肯定的か否定的かによって、陽性転移と陰性転移の2種類があります。
陽性転移とは、信頼や好意など、治療者へ肯定的な感情が向けられるものです。
陰性転移とは、不信や怒りなど、治療者へ否定的な感情が向けられるものです。
治療者への信頼や好意といった陽性的な感情が、比較的早い段階から生じることもあります。このような治療者との関係の中で生まれる感情も、クライエントの過去や無意識を理解する手がかりになります。
逆転移とは?
逆転移は、クライエントとのやりとりのなかで治療者の心に生じる感情の動きです。
逆転移には、大きく分けて2つの生まれ方があります。
ひとつは、治療者自身の内面から生まれる逆転移です。
治療者も、クライエントと同じように、面接のなかでさまざまな感情が動く一人の人間ですので、治療者自身の対人関係のパターンや、その日の心身の状態が、面接に影響を与えることがあります。
もうひとつは、クライエントが誘発する逆転移です。
クライエントがふだん周囲の人との関係のなかで引き起こしている対人関係のパターンが、治療者との間でも再現されることがあります。これは、後年の分析家たちによって広がった見方です。
たとえば、治療者があるクライエントと話すとき、他のクライエントより強い苛立ちを感じるという場合、その背景に
- 治療者自身の父親との関係の問題や、かつて自分が嫌っていた自分自身の姿と、そのクライエントが重なって見えていること
- そのクライエントが、ふだん周囲の人にも同じような苛立ちを引き起こしやすい対人関係のパターンを持っていること
などの影響を受けている可能性もあるということです。
逆転移は、治療者自身も気づきにくいのが特徴です。
逆転移の捉え方の変化
逆転移の捉え方は、時代とともに変わってきました。
フロイトは1910年ごろ、逆転移を治療の妨げになるもの(治療者の未解決の問題が面接に持ち込まれてしまうこと)として取り上げ、乗り越えるべきものと位置づけていました。
その後、後年の分析家たちによって、クライエントが誘発する逆転移という見方が加わり、逆転移はクライエントを理解するための手がかりとしても使えると考えられるようになりました。

治療者がクライエント(患者)に対して感じる感情には、クライエントの対人関係のパターンが映し出されているかもしれない、という見方を持っておくことが大切です。
逆転移で大切なのは、自分自身の感情や、治療者とクライエントのあいだに生まれている関係性を、そのつどしっかりと捉えようとすることです。
面接場面での転移・逆転移の一例
転移と逆転移は、別々に起こるというより、ひとつのやりとりのなかで連動して現れます。以下に一例を紹介します。
※なお、これはわかりやすくするための一例であり、転移・逆転移の「正解」を示すものではありません。
仕事での失敗が続いて落ち込んでいるAさんが、面接で「また怒られるんじゃないか」と不安を話していたとします。
このように、転移と逆転移はその人の対人関係のパターンを知るための材料になります。
まとめ
転移・逆転移は、過去の人間関係で身についたパターンが面接という場に現れてくる自然な現象で、対人関係のある場面では誰にでも起こり得ます。クライエント(患者)の問題だけではなく、その面接内で沸き起こる二者間の関係性も重要な要素となります。
- 転移=クライエント→治療者、逆転移=治療者→クライエント
- 転移は、過去の大切な人との関係で身についた感じ方・期待の型が、治療者との関係に無意識に持ち込まれること
- 陽性転移(信頼・好意など)と陰性転移(不信・敵意など)がある。陽性転移のほうが早く出やすいとされる
- 逆転移は治療者の側の感情反応で、治療者自身に由来するものと、クライエントが誘発するものがある。フロイトは当初「治療の妨げ」としたが、現在は「クライエント理解の手がかり」としても使えると考えられている
- 転移と逆転移は面接のなかで連動して起こり、クライエントの対人関係パターンを理解する手がかりになる






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