子どもの発達を段階に分けて捉える理論として、よく一緒に紹介されるのが、ボウルビィの愛着理論、ピアジェの認知発達理論、フロイトの心理性的発達理論です。
どれも年齢ごとに段階が分かれているため似た理論に見えますが、3つの理論は「子どもの何を見ているか」が違います。
を示した理論です。
たとえば「いないいないばあ」で喜ぶ赤ちゃんを見たとき、
ボウルビィは「安心できる人の顔が戻ってくること」に、
ピアジェは「見えなくなっても、そこにいるとわかり始めたこと」に、
フロイトは「心地よさを求める気持ちが満たされること」に注目します。
- ボウルビィは「人とのつながり」、ピアジェは「考えるしくみ」、フロイトは「心のエネルギーの行き先」から発達を説明した理論
- 段階の数はボウルビィとピアジェが4つ、フロイトが5つ。ボウルビィの段階は3歳前後で終わり、ピアジェとフロイトは思春期まで続く
- 発達を動かすものは、ボウルビィが愛着行動、ピアジェが均衡化、フロイトがリビドー
- うまくいかなかったときを、ボウルビィは心に残るイメージ、ピアジェはその段階らしい考え方、フロイトは固着と退行で説明する
- 3つの理論は対立するものではなく、同じ子どもの姿を別の角度から見ている
ボウルビィ・ピアジェ・フロイトの違いとは

ボウルビィは「誰とのつながりで安心できるか(心のつながり)」、
ピアジェは「どう考えられるようになるか(考えるしくみ)」、
フロイトは「心のエネルギーがどこに向かうか(欲求と心の動き)」
を示した理論です。
まず、3つの理論をそれぞれ簡単に説明します。
- ボウルビィの愛着理論:特定の人との間に結ばれる情緒的な絆(愛着)が、どのように育ち、その後の人間関係にどう影響するかを示した理論
- ピアジェの認知発達理論:子どもの考える力が、4つの段階を経て質的に変化していくことを示した理論
- フロイトの心理性的発達理論:心のエネルギーであるリビドーの向かう体の部位が、成長とともに移り変わっていくことを示した理論
同じ「発達段階」でも、ボウルビィは誰と、どんな絆を結ぶか、ピアジェは世界をどう理解するか、フロイトは何に心地よさを求めるかを見ています。

つまり3つの理論の一番大きな違いは、「心のつながり」「考えるしくみ」「心のエネルギー」のどれを見るかです。
比較表で見る3つの理論の違い
| 比較のポイント | ボウルビィ | ピアジェ | フロイト |
|---|---|---|---|
| 理論の名前 | 愛着理論 | 認知発達理論 | 心理性的発達理論 |
| 立場 | 精神科医・精神分析家 | 心理学者 | 精神分析の創始者 |
| 注目したもの | 特定の人との情緒的な絆 | 物事を理解する考え方のしくみ | リビドー(心のエネルギー)の向かう先 |
| 段階の数 | 4段階 | 4段階 | 5段階 |
| 対象とする年齢 | 誕生〜3歳前後(その後は内的作業モデルとして一生続く) | 誕生〜11、12歳ごろ以降 | 誕生〜思春期以降 |
| 発達を動かすもの | 愛着行動 | 均衡化 | リビドー |
| うまくいかないとき | 「頼っても無駄」という内的作業モデルにつながりやすい | 段階は飛ばさず、進み方に個人差がある | その段階に固着し、ストレス時に退行しやすい |
| キーワード | 愛着行動、内的作業モデル、母性剥奪 | シェマ、同化、調節、均衡化 | 固着、退行、エディプス・コンプレックス |
| 主な著書 | 『母子関係の理論』(原著『愛着と喪失』3部作、1969〜1980年) | 『知能の誕生』(1936年) | 『性理論のための三篇』(1905年) |
- 「安全基地」はエインズワースが提唱し、ボウルビィが愛着理論に取り入れた考え方。愛着のタイプを観察で確かめたのもエインズワース
- ピアジェの「自己中心性」は、わがままという意味ではなく、他の人の視点に立って考えるのが難しいという意味
- エリクソンの最初の3つの段階は、フロイトの口唇期・肛門期・男根期にそれぞれ対応している
ここからは、表の中でも特に大切な4つの違いを順番に説明します。
ボウルビィ・ピアジェ・フロイトの4つの違い
- 理論の立場と目的
- 発達を動かすもの
- 段階の分け方
- うまくいかなかったときの捉え方
理論の立場と目的
ボウルビィは精神科医・精神分析家です。幼いころに母親(または母親役の人)との関係を奪われると、心の発達に深刻な影響が出ることに注目し、「この人がいれば安心できる」という心のつながりがどう育つのかを明らかにしようとしました。
ピアジェは心理学者です。子どもは知識が少ない「小さな大人」ではなく、大人とは違う考え方のしくみを持っていると考えました。子どもが自分の経験をもとに、知識を自分で組み立てていく過程を明らかにしようとしました。
フロイトは精神分析の創始者です。生まれつき備わった「こうしたい」と駆り立てる心のエネルギー(欲動)に注目し、そのエネルギーの向かい方が、大人になってからの心のあり方にどう影響するのかを説明しようとしました。

ボウルビィは「人との関係」の目線、ピアジェは「頭の中」の目線、フロイトは「心の奥にある欲求」の目線で子どもを見ている、と考えるとわかりやすいと思います。
発達を動かすもの
ボウルビィの理論で発達の中心になるのは、愛着行動です。不安を感じると強まり、安心すると収まる行動で、後を追って泣く、転んだあと抱っこを求める、などがこれにあたります。
ピアジェが発達の原動力と考えたのは、均衡化です。新しい経験を今のシェマに当てはめる「同化」と、シェマを作り変える「調節」をくり返し、バランスをとっていく働きです。
猫を「ワンワン」と呼んでいた子が、やがて「ニャンニャン」と呼び分けるようになるのが、その一例です。
フロイトが発達の原動力と考えたのは、リビドーです。車を動かすガソリンのような心のエネルギーで、その向かう先が口→肛門→性器と移っていくと考えました。

人との「関係」に原動力を見たのがボウルビィ、子ども自身の「探索」に見たのがピアジェ、心の内側の「欲動」に見たのがフロイトです。
段階の分け方
ボウルビィとピアジェは4つ、フロイトは5つの段階に分けました。年齢ごとに並べると、次のようになります。
| 年齢の目安 | ボウルビィ (愛着) |
ピアジェ (認知) |
フロイト (心理性的) |
|---|---|---|---|
| 誕生〜8〜12週ごろ | 第1段階 誰にでも反応する |
感覚運動期 | 口唇期 |
| 〜6か月ごろ | 第2段階 特定の人を見分ける |
||
| 〜1歳ごろ | 第3段階 特定の人に自分から近づく |
||
| 1〜2歳ごろ | 肛門期 | ||
| 2〜3歳ごろ | 前操作期 | ||
| 3〜6歳ごろ | 第4段階 相手の都合も考えて関係を調整する |
男根期 | |
| 6〜7歳ごろ | 内的作業モデルとして 一生続く |
潜伏期 | |
| 7〜11、12歳ごろ | 具体的操作期 | ||
| 思春期以降 | 形式的操作期 | 性器期 |
※年齢はあくまで目安です。
特に違いが大きいのは、段階が終わる時期です。ボウルビィの段階は3歳前後までで終わり、その後は心の中にできた「自分」と「他者」のイメージ(内的作業モデル)として、愛着は一生を通じて見られると考えました。大人の恋愛関係にも同じようなパターンが見られるとする研究もあります。
一方、ピアジェとフロイトは思春期まで段階を設けています。乳幼児期を細かく分けたのがボウルビィ、学童期以降まで見通したのがピアジェとフロイトと考えると、整理しやすいと思います。
うまくいかなかったときの捉え方
ボウルビィは、困ったときに応えてもらえた経験は「人は頼れる」「自分は大切にされる」というイメージに、応えてもらえなかった経験は「頼っても無駄」というイメージにつながりやすいと考えました。どんなイメージが心に残るかという見方が基本です。
また、養育者と引き離された子どもは、「抗議」→「絶望」→「離脱」の順に反応することも観察しています。
細長いコップに移したジュースを「増えた」と答える幼児は、知識が足りないのではなく、その段階の考え方のしくみで答えていると考えます。ピアジェにとって、これは「つまずき」ではなく、その段階らしい考え方です。
段階の順番は変わらず、飛ばすこともない一方で、進み方には個人差があるとされています。
ある段階で欲求が十分に満たされない、あるいは満たされすぎると、リビドーがその段階にとどまり続ける固着が起こると考えました。
そして強いストレスに直面したとき、固着していた段階へ心が逆戻りする退行が起こると説明します。

つまり、ボウルビィは「心に残るイメージ」、ピアジェは「その段階らしい考え方」、フロイトは「固着と退行」という形で、うまくいかなかったときを説明しています。
同じ出来事を3つの理論で見る
3つの理論の違いは、同じ出来事にあてはめてみるとよくわかります。
- ボウルビィ:第3段階。特定の人との愛着がはっきり形になった証拠で、後追いや分離不安として表れる
- ピアジェ:感覚運動期。見えなくなっても親はどこかにいるとわかるようになった(対象の永続性)からこそ、探して泣く
- フロイト:口唇期の終わりごろ。授乳などで満足を与えてくれる相手から離れることへの反応、と捉えることもできる
- ボウルビィ:不安を感じて、愛着行動が強まっている状態。安心できれば、自然と収まっていく
- ピアジェ:前操作期。親がなぜ赤ちゃんの世話で忙しいのかを、親の立場から想像するのはまだ難しい(自己中心性)
- フロイト:強い不安をきっかけに、心が前の段階へ逆戻りする「退行」の代表例
- ボウルビィ:親との関係でできた内的作業モデルが、友人や恋愛の関係でも働き始める
- ピアジェ:形式的操作期。「もし親の言うことが正しくなかったら?」と、抽象的に問い直せるようになる
- フロイト:性器期。リビドーが再び活発になり、家族の外の成熟した対人関係へ向かう

3つの理論は対立するものではなく、同じ子どもの姿を別の角度から見ています。
ボウルビィ・ピアジェ・フロイトの共通点

注目したところは違っても、3つの理論には共通点もあります。
- 発達を、順番のある段階で捉えている
- 幼いころの経験が、その後の土台になると考えている
- 子どもを「小さな大人」ではなく、子どもなりの感じ方・考え方をもつ存在として見ている
- 前の段階を通って次の段階へ進むと考えている
特に、内的作業モデル、シェマの積み重ね、固着と、言い方は違っても「前の経験が後の心に影響する」と考えている点は、3つの理論に共通する大きな特徴です。
一方で、ボウルビィが母親の役割を重視したのには、母親が主に子育てを担うのが一般的だった時代背景もあります。現在では、愛着の相手は母親に限らず、父親や祖父母、保育者など複数の人と愛着関係を築くと考えられています。フロイトの理論も当時の価値観を反映しているため、どの理論も生まれた時代を意識しながら読むことが大切だと思います。
また、フロイトの段階を土台にして、生涯にわたる発達を描いたのがエリクソンです。あわせて読むと、発達理論のつながりがより見えやすくなります。
まとめ
- ボウルビィは「心のつながり」、ピアジェは「考えるしくみ」、フロイトは「心のエネルギーの行き先」から子どもの発達を説明した
- ボウルビィは精神分析家として4段階、ピアジェは心理学者として4段階、フロイトは精神分析の創始者として5段階に分けた
- 発達を動かすものは、ボウルビィが愛着行動、ピアジェが均衡化、フロイトがリビドー
- うまくいかなかったとき、ボウルビィは心に残るイメージ、ピアジェはその段階らしい考え方、フロイトは固着と退行で説明する
- 3つの理論は対立するものではなく、同じ子どもの姿を別の角度から見ている
3つの理論を知っていると、子どもの「困った行動」も、発達の途中で見られる姿として受け止めやすくなります。それぞれの理論の各段階は、次の記事でくわしく解説しています。
参考文献
- J・ボウルビィ(著)黒田実郎・大羽蓁・岡田洋子・黒田聖一(訳)(1991)『母子関係の理論 I 愛着行動[新版]』岩崎学術出版社
- J・ピアジェ(著)谷村覚・浜田寿美男(訳)(1978)『知能の誕生』ミネルヴァ書房
- フロイト(著)渡邉俊之(訳)(2009)「性理論のための三篇」『フロイト全集6』岩波書店







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