精神分析は、心理療法の歴史をたどるうえで欠かせない考え方のひとつです。ただ、名前は知っていても「実際の面接では何をしているのか」となると、はっきりイメージできない方も多いのではないでしょうか。カウチに横になって思いつくままに話す、という場面を思い浮かべる方もいると思います。
この記事では精神分析(精神分析的心理療法)の面接では具体的に何が行われるのか、そしてフロイトの時代のやり方と現在のやり方で何が変わったのかを整理していきます。
- 精神分析(精神分析的心理療法)とはどんな治療法か
- カウチ・面接の頻度・治療の枠といった、精神分析が行われる設定
- 治療同盟(作業同盟)とは何か、なぜ技法より先に大切にされるのか
- 自由連想法・夢分析・解釈の中身と、現在の精神分析的心理療法との違い
精神分析(精神分析的心理療法)とは?
精神分析とは、フロイトによって創始された、無意識の働きに注目しながら、話すことを通して心の理解を深めていく心理療法、およびその理論のことです。現在は、頻度を抑えた「精神分析的心理療法」という形で行われることが多くなっています。
フロイトは19世紀末、体の検査では説明のつかない症状の背景に、本人が自覚していない心理的な葛藤があるのではないかと考えました。ここから、無意識のうちにしまい込まれた感情や記憶を言葉にしていくことで、症状の改善や自己理解を目指すという治療が形づくられていきます。目的は、自分でも気づいていない心の動きに気づき、それを言葉にできるようにしていくことです。

クライエント(患者)の内側にある感情や、行動の背景にあるものを、治療者と一緒に見つめていく、というイメージです。
精神分析では何をするのか
精神分析はどんな設定で面接を行っているのかを簡単にまとめました。
カウチ(寝椅子)と対面
精神分析でよく知られているのが、カウチを使う設定です。クライエント(患者)はカウチに横になり、治療者はその斜め後ろに座ります。おたがいの顔が見えない体勢を取るのは、相手の表情をうかがって話を調整することを減らし、自分の内側に注意を向けやすくするためだとされています。カウチを使わず、対面のいすに座って行う形もあります。
面接の頻度と枠
精神分析では、週4〜5回、1回45〜50分ほどの面接を、同じ曜日・同じ時間に続けていきます。期間は、悩みの深さや目標によって、数か月から数年と幅があります。
「毎回同じ設定で行う」という枠組みは、治療構造と呼ばれます。時間・頻度・料金・場所などをあらかじめ決めて動かさないことで、そのなかで起こる気持ちの揺れ動きが観察しやすくなる、という考え方です。

こうした枠組みを大切にする考え方は、精神分析だけでなく、多くの心理療法に共通しています。
治療を支える土台――治療者との関係(治療同盟)
設定が整っても、面接が実際に動きだすには、治療者とクライエント(患者)のあいだの関係が欠かせません。この土台にあたるのが治療同盟です。
治療同盟とは、クライエント(患者)と治療者が、治療の目標を共有し、そこへ向けて取り組むことに合意し、たがいに信頼できる関係を築いている状態のことです。作業同盟とも呼ばれます。
1970年代にボルディンは、治療同盟を次の3点で整理したとされています。
- 目標の合意
- 取り組む課題の合意
- 情緒的な絆
治療同盟は指導する側とされる側といった上下の関係ではありません。治療者とクライエント(患者)が、クライエント(患者)の悩みについて二人で一緒に考えていく、協働的な関係です。
どの心理療法でも、「一緒に取り組んでいる」という土台の有無が治療の効果と結びつくことが繰り返し報告されており、学派を問わない共通要因のひとつとされています。
自由連想法――頭に浮かぶことをそのまま話す
精神分析の中心にあるのが、自由連想法です。自由連想法は、頭に浮かんできたことを、意識的に言葉を選ぶことなく、そのまま言葉にしていってもらう方法です。

自由連想法によって、ふだんは気づかれにくい連想のつながりや、避けていた感情が表に出てきやすくなる、とされています。
「自由に」と言われても、実際には話しにくいことや、口ごもってしまう話題が出てきます。精神分析では、こうした話しづらさそのものに意味があると考えます。抵抗とは、話したくない・触れられたくない気持ちが、言いよどみや沈黙、話題のそらし方といった形で無意識に表れることをいいます。
この「抵抗」は、第3回で扱った防衛機制とも深く関わっています。
面接のなかで仕事の愚痴を話していた人が、ふと子ども時代の家族の場面を話し始めました。しかし、その話の核心に触れそうになったところで、急に「まあ、昔のことなので関係ないですよね」と話を切り上げ、その後口数が減って沈黙が続きました。
自由連想では、こうして浮かんでくるつながりと、それを避けようとする動きの両方を、一緒に眺めていきます。
夢分析――夢を手がかりにする
夢分析は、面接で語られた夢について、その場面や登場人物の一つひとつから連想を広げてもらい、背景にある無意識の願望や葛藤を理解しようとする方法です。フロイトは『夢解釈』(1900年)で、夢を無意識に近づくための重要な手がかりと位置づけました。
夢を図鑑のように「この場面はこういう意味」と当てはめて読む、というより、「その夢を見て何を思い出すか」という本人の連想のほうを重く見ます。
面接中、クライエント(患者)が、「試験に遅刻して会場にたどり着けない夢を、ここ最近何度も見る」と話しました。実際には差し迫った試験や締め切りがあるわけではなく、本人も「なぜこんな夢を見るのか、自分でもよく分からない」と話します。
リビドーや無意識のとらえ方から決別したユングは、夢分析においてフロイトとは異なる考え方を示しました。
- フロイト:夢を個人的な連想を通して理解(その人自身の記憶や経験とのつながりをたどる)
- ユング:夢に人類に共通する集合的無意識から生まれる元型(アーキタイプ)のイメージが表れると考え、神話や象徴と結びつけて解釈する方法(拡充法)を重視
解釈――気づきをうながす声かけ
解釈とは、クライエント(患者)の話や連想から見えてくる無意識の部分を、治療者が言語化して提示することです。正解を教えるためではなく、本人が自分で気づいていくのを助けるための声かけ、という位置づけです。

目の前で繰り返される行動の背景に、その人がこれまでの経験の中で身につけてきた思い込みが関わっている、というように、”今”の言動と、その人自身の意味を無意識から探していきます。
現代の精神分析的心理療法の特徴
現在では、ここまで見てきた精神分析の枠組みのまま面接をすることは少なくなってきており、時代に合わせて枠組みを調整した「精神分析的心理療法」が主流になっています。
フロイトが確立した「精神分析」と、そこから枠組みを調整した「精神分析的心理療法」との違いは以下の通りです。
| 観点 | 精神分析 | 精神分析的心理療法 |
|---|---|---|
| 面接の頻度 | 週4〜5回 | 週1回程度(週1〜2回) |
| 体勢 | カウチに横になる | いすに座って対面 |
| 1回の時間 | 45〜50分ほど | |
| 期間 | 悩みの深さや目標によって、数か月〜数年と幅がある | |
| 焦点 | 無意識の探索が中心 | 無意識に加え、対人関係や仕事など、今の生活の困りごとにも焦点 |
| 中心の技法 | 自由連想 | 自由連想を土台にしつつ、より対話的なやりとりを重視する |
精神分析的心理療法が広まった背景には、時間や費用の負担で受けられる人が限られていたことに加え、「今ここで起きていること」を重視する理論的な変化があります。
まとめ
精神分析は、自由連想や夢分析、解釈といった方法を通して、無意識にある感情や葛藤をじっくりと知ろうとする心理療法です。「無意識に目を向ける」「感情や考えを言葉にしていく」「治療者との関係も手がかりにする」という中心は、時代が変わっても受け継がれています。
- 精神分析(精神分析的心理療法)は、無意識に注目し、話すことを通して自己理解を深める心理療法。
- 精神分析はカウチに横になり、決まった枠(治療構造)で続ける。
- 治療同盟(作業同盟)は、クライエント(患者)と治療者が目標を共有し、たがいに信頼して取り組む関係。
- 基本技法は自由連想法・夢分析・解釈。夢分析は夢を相手にした自由連想で、言いよどみや沈黙などの「抵抗」にも意味があると考える
- 現在は枠組みを調整した精神分析的心理療法(週1回程度・対面)が主流





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