- 赤ちゃんが身近な人を頼れるようになる
- 思春期に「自分とは何か」と悩む
- 年を重ねて自分の人生を振り返る
人生のそれぞれの時期には、その時期ならではの心のテーマがあります。
このようなテーマを、生まれてから老年期まで8つの段階に分けて整理したのが、エリクソンの心理社会的発達理論(ライフサイクル論)です。

心理社会的発達理論とは、人生の各時期に心の中で向き合うテーマと、それを乗り越えて身につく「人生を支える心の力」を、8つの段階にまとめた理論です。
- 心理社会的発達理論(ライフサイクル論)とは、人生の各時期に心の中で向き合うテーマと、それを乗り越えて身につく心の力を、8つの段階にまとめた理論のこと
- 心理社会的危機とは、成長に伴って心と人間関係の新しい課題に直面したときに生じる、心の葛藤のこと
- 徳とは、危機を乗り越えることで身につく、その後の人生を支える心の力のこと
- 前の段階は後の段階の土台になるが、つまずいても後の段階で取り戻すことができる
エリクソンの心理社会的発達理論(ライフサイクル論)とは

心理社会的発達理論(ライフサイクル論)とは、人の一生を8つの発達段階に分け、
各段階で向き合う心理社会的危機と、それを乗り越えて得られる強さ(徳)を示した理論のことです。
この理論を提唱したのは、ドイツに生まれ、アメリカで活躍した精神分析家、エリク・H・エリクソンです。エリクソンはウィーンでアンナ・フロイトのもとで精神分析を学び、著書『幼児期と社会』(1950年)のなかで8つの発達段階を示しました。その後も『アイデンティティ』(1968年)、『ライフサイクル、その完結』(1982年)などで理論を発展させています。
心理社会的発達理論は、ライフサイクル論とも呼ばれます。「心理社会的」とは、心の成長が本人の内面だけで決まるのではなく、家族・学校・社会との関わりのなかで進んでいくという意味です。

わかりやすく言えば、「人は一生をかけて、人との関わりのなかで心を育て続ける」という考え方です。
エリクソンの理論は、フロイトの心理性的発達理論(口唇期・肛門期などの発達段階)を土台にしています。フロイトが思春期までの発達を中心に論じたのに対して、エリクソンは人との関わりや社会の影響を重視し、発達を老年期までの一生に広げた点が大きな特徴です。
また、ライフサイクル論の「ライフサイクル(人生の周期)」という言葉には、一人の一生の流れだけでなく、親の世代が子の世代を育て、その子がまた次の世代を育てるという、世代のつながりの意味も込められています。
理論の基本となる4つの考え方
8つの段階を見る前に、理論の土台になる考え方を整理します。
- 心理社会的危機
- 対になる2つの傾向のバランス
- 徳(基本的な強さ)
- 漸成原理
心理社会的危機
心理社会的危機とは、各発達段階で、本人の心の成長と、周りの人や社会から求められることとの間に生じる葛藤のことです。
「危機」と聞くと、悪いことが起きそうな危ない状況を思い浮かべる方が多いと思いますが、エリクソンのいう危機(crisis)は、成長に伴って、心と人間関係の新しい課題に直面する人生の節目に生じるものです。
たとえば小学校に入ると、勉強や友だち付き合いが始まり、「がんばれば自分もできる」と思えるかどうかが問われます。

ひと言でいうと、心理社会的危機とは、成長するたびにやってくる「心の分かれ道」のことです。
対になる2つの傾向のバランス
各段階の心理社会的危機は、肯定的な傾向(左側)と否定的な傾向(右側)とのせめぎ合いとして、「勤勉性 対 劣等感」のような「A 対 B」の形で表されます。

わかりやすく言えば、左側は成長にとって望ましい心の傾向、右側は望ましくない心の傾向です。
右側の傾向をなくすことが目標ではなく、左側が上回るバランスになることが大切とされています。
たとえば乳児期の「基本的不信」も、まったくないほうがよいわけではありません。ある程度の不信は、危険を見分けたり、慎重にふるまったりするために必要です。どちらか一方を選ぶのではなく、望ましい傾向が上回る状態を目指す、というのがエリクソンの考え方です。
徳(基本的な強さ)
エリクソンは、各段階の危機を肯定的な傾向が上回るバランスで乗り越えると、徳(virtue)と呼ばれる心の強さが得られると考えました。「基本的な強さ」と訳されることもあります。

エリクソンのいう徳は、道徳的な正しさではなく、その後の人生を支える心の力という意味です。
徳は、乳児期の「希望」から老年期の「英知」まで、段階ごとに1つずつ、全部で8つあります。
漸成原理
漸成原理とは、心の発達は決まった順序で進み、それぞれの段階が前の段階の上に積み重なって、全体としてまとまっていくという考え方のことです。
お腹の中で赤ちゃんの体が器官ごとに順番につくられていくように、心の発達にも順序があると考えられています。
エリクソンはこの考え方を、漸成図式(個体発達分化の図式)と呼ばれるマス目の図で表しました。

図の斜めのマスが、各段階で主役になる危機です。空白のマスは、それぞれの危機が主役になる前から芽生えていて、主役の時期を過ぎたあとも形を変えて続いていくことを表しています。
つまり、各段階の危機はその時期だけで終わるものではなく、一生を通じて何度も問い直されるものです。
8つの発達段階一覧
エリクソンは、人生を次の8つの段階に分けました。
| 発達段階 | 年齢の目安 | 心理社会的危機 | 徳 |
|---|---|---|---|
| 乳児期 | 0〜1歳半ごろ | 基本的信頼 対 基本的不信 | 希望 |
| 幼児期前期 | 1歳半〜3歳ごろ | 自律性 対 恥・疑惑 | 意志 |
| 幼児期後期 | 3〜6歳ごろ | 自主性 対 罪悪感 | 目的 |
| 学童期 | 6〜12歳ごろ | 勤勉性 対 劣等感 | 有能感 |
| 青年期 | 12〜20歳ごろ | 同一性 対 同一性拡散 | 忠誠 |
| 成人期前期 | 20〜40歳ごろ | 親密性 対 孤立 | 愛 |
| 壮年期 | 40〜65歳ごろ | 生殖性 対 停滞 | 世話 |
| 老年期 | 65歳ごろ以降 | 統合 対 絶望 | 英知 |
乳児期(0〜1歳半ごろ):基本的信頼 対 基本的不信

乳児期は、母親など身近な養育者との関わりを通して、世界や人を信頼できるかどうかの土台がつくられる時期です。
- 基本的信頼 対 基本的不信(獲得される徳:希望)
- 泣くと抱っこしてもらえる経験を重ね、少しの間なら泣かずに待てるようになる(基本的信頼)
- 泣いても応えてもらえないことが続き、抱かれても体をこわばらせる(基本的不信)
基本的信頼とは、「周りの人は自分の求めに応えてくれる」という他者への信頼と、「自分は応えてもらえる存在だ」という自分自身への信頼のことです。
赤ちゃんは、お腹が空いた・眠い・不快だといった欲求を、自分では満たせません。養育者が一貫して世話をしてくれる経験を重ねることで、世界は安心できる場所だという感覚が育ちます。
この段階で得られる徳は希望です。
希望とは、「強く願ったことは、いつかかなえられる」と信じ続けられる力のことです。
幼児期前期(1歳半〜3歳ごろ):自律性 対 恥・疑惑

幼児期前期は、歩く・話す・トイレに行くなど、自分の体を自分でコントロールし始める時期です。
- 自律性 対 恥・疑惑(獲得される徳:意志)
- 「じぶんで!」と言って、靴を自分ではこうとする(自律性)
- おもらしを強く叱られ、トイレに行くのをためらうようになる(恥・疑惑)
この時期の子どもは、「自分でやりたい」という気持ちが強くなります。
トイレトレーニングに代表されるように、体を自分の意思で「がまんする」「出す」をコントロールするといった自律性が大きなテーマです。
自分でやってみて、うまくいく経験を重ねると、自律性が育ちます。反対に、失敗を強く責められたり、何でも先回りして手伝われたりすると、「自分はできない」「人に見られて恥ずかしい」という恥や疑惑の気持ちが強くなることがあります。
ここで育つ徳が意志です。
意志とは、自分で選ぶことと、自分をおさえることの両方を、自分の意思で行おうとする力のことです。
幼児期後期(3〜6歳ごろ):自主性 対 罪悪感

幼児期後期は、言葉や想像力が豊かになり、遊びを通して自分から物事に取り組み始める時期です。
- 自主性 対 罪悪感(獲得される徳:目的)
- 「お店屋さんごっこしよう」と、自分から遊びを始める(自主性)
- 「なんで?」と質問ばかりして叱られ、聞きたいことがあっても黙るようになる(罪悪感)
この時期の子どもは、自由に動き回れるようになり、ごっこ遊びのように自分で目標を立てて、やってみることが増えます。エリクソンはこの時期を「遊戯期」とも呼んでいます。
一方で、親から「してよいこと・いけないこと」を学び、心の中に良心が育つ時期でもあります。やりたい気持ちを叱られる経験ばかりが続くと、自分から何かをすること自体に罪悪感を抱きやすくなります。
自主性が上回るバランスで乗り越えると、目的という徳が得られます。
目的とは、罪悪感や叱られる不安にしばられずに、大切だと思う目標を思い描き、それに向かう勇気のことです。
学童期(6〜12歳ごろ):勤勉性 対 劣等感

学童期は、学校での勉強や友だちとの活動を通して、知識や技術を身につけていく時期です。
- 勤勉性 対 劣等感(獲得される徳:有能感)
- 練習を重ねて、逆上がりができるようになる(勤勉性)
- テストの点を友だちと比べて、「どうせ自分はできない」と思う(劣等感)
勤勉性とは、コツコツ取り組んで、物事をやり遂げる喜びを知ることです。
この時期の子どもは、勉強や運動、ものづくりなどに取り組み、やり遂げたことを周りから認められる経験を重ねます。
学校では、ほかの子と比べられる場面も増えます。努力が報われない経験や、比べられて否定される経験が重なると、「自分は人より劣っている」という劣等感が強まりやすいと言われています。
この段階の徳は有能感です。
有能感とは、劣等感にしばられずに、自分の能力や知恵を使って物事をやり遂げられるという感覚のことです。
青年期(12〜20歳ごろ):同一性 対 同一性拡散

青年期は、体が大人へと変化するなかで、「自分とは何者か」を問い、自分らしい生き方を見つけていく時期です。
- 同一性 対 同一性拡散(獲得される徳:忠誠)
- 進路に迷いながらも、「自分はこれをやっていきたい」と決める(同一性)
- 周りに合わせて進路を選び、自分が何をしたいのかわからなくなる(同一性拡散)
同一性(アイデンティティ)とは、「自分はこういう人間だ」という感覚が、過去から今まで一貫していて、周りの人から見た自分ともずれていないという感覚のことです。アイデンティティは、エリクソンの理論のなかでも特によく知られている概念です。
青年期には、子どもの頃の自分と、大人になっていく自分、家族や友だちの前での自分など、さまざまな自分が出てきます。それらを一つにまとめられず、自分が何者なのか、何をしたいのかがわからなくなった状態を同一性拡散といいます。
青年期に得られる徳は忠誠です。忠誠とは、価値観のぶつかり合いや迷いがあっても、自分で選んだものを大切にし続ける力のことです。
エリクソンは、青年期を心理社会的モラトリアムの時期とも呼びました。モラトリアムとは、大人としての責任や義務が猶予され、いろいろな役割や生き方を試しながら自分を探せる期間のことです。
部活動・アルバイト・進路選択などで試行錯誤することは、同一性をつくるための大切なプロセスと考えられています。
成人期前期(20〜40歳ごろ):親密性 対 孤立

成人期前期は、友人やパートナーなど、他者と深く信頼し合える関係を築いていく時期です。
- 親密性 対 孤立(獲得される徳:愛)
- 意見がぶつかっても、本音で話し合って関係を続ける(親密性)
- 深い付き合いを避け、人と表面的な関係しか持たない(孤立)
親密性とは、自分を見失うことを恐れずに、他者と深く関わり合える力のことです。恋愛や結婚に限らず、親しい友人や仕事の仲間との関係も含まれます。
エリクソンは、本当の親密性は、青年期にある程度の同一性ができてから可能になると考えました。「自分」がしっかりしていないと、人と近づくことで自分が飲み込まれてしまう不安が強くなり、人との距離を置いて孤立を選びやすくなるためです。
親密性が上回るバランスで乗り越えると、愛という徳が得られます。
愛とは、違いを持った者同士が、お互いに相手を大切にし合う関係を続けていく力のことです。
壮年期(40〜65歳ごろ):生殖性 対 停滞

壮年期は、子育てや仕事、地域活動などを通して、次の世代を育て、何かを残していく時期です。
- 生殖性 対 停滞(獲得される徳:世話)
- 職場の後輩に、自分の仕事のコツを教える(生殖性)
- 自分のことにしか関心が向かず、毎日がただ過ぎていくように感じる(停滞)
生殖性(ジェネラティビティ)は、エリクソンがつくった言葉で、次の世代を育て、導くことへの関心のことです。「世代性」と訳されることもあります。
一方、次の世代や社会に目が向かず、自分のことだけに関心が向いた状態を停滞といいます。
「生殖」という訳語から子どもを持つことだけを指すように見えますが、エリクソンのいう生殖性は、もっと広い意味です。後輩や部下を育てること、作品や技術、アイデアを生み出して社会に残すことも含まれます。
ここで育つ徳が世話(ケア)です。
世話とは、自分が生み出し、育ててきた人や物事を、責任を持って大切にしようとする関心の広がりのことです。
老年期(65歳ごろ以降):統合 対 絶望

老年期は、これまでの人生を振り返り、自分の一生を受け入れていく時期です。
- 統合 対 絶望(獲得される徳:英知)
- 「いろいろあったけれど、いい人生だった」と振り返る(統合)
- 「人生をやり直したいが、もう時間がない」と悔やむ(絶望)
統合とは、うまくいったことも、いかなかったことも含めて、自分のたった一度の人生を「これでよかった」と受け入れることです。
反対に、人生を受け入れられず、やり直そうにも残された時間が短いと感じて苦しむ状態が絶望です。老年期の絶望は、死への恐れという形で表れることもあるとされています。
最後の段階で得られる徳は英知です。英知とは、老いや死に向き合いながらも、
人生そのものに対して、とらわれすぎずに関心を持ち続ける力のことです。
エリクソンは『幼児期と社会』のなかで、年長者が死を恐れないだけの統合を持っていれば、健康な子どもは人生を恐れない、という趣旨のことを述べています。老年期の統合が、次の世代の乳児期の信頼を支えるという考え方です。ここに、一生と世代がつながって循環する「ライフサイクル」の考え方が表れています。
まとめ
- 心理社会的発達理論(ライフサイクル論)とは、人生の各時期に心の中で向き合うテーマと、それを乗り越えて身につく心の力を、8つの段階にまとめた理論
- 心理社会的危機とは、成長に伴って心と人間関係の新しい課題に直面したときに生じる、心の葛藤
- 徳とは、危機を乗り越えることで身につく、その後の人生を支える心の力
- 望ましい傾向が上回るバランスで危機を乗り越えると、徳が得られる。つまずいても、後の段階で取り戻すことができる
- 乳児期:基本的信頼 対 基本的不信 → 希望(人を信じて「きっと大丈夫」と思える力)
- 幼児期前期:自律性 対 恥・疑惑 → 意志(「やりたい」と「がまんする」を自分で決められる力)
- 幼児期後期:自主性 対 罪悪感 → 目的(自分から目標を立てて動き出す勇気)
- 学童期:勤勉性 対 劣等感 → 有能感(「がんばれば自分もできる」という感覚)
- 青年期:同一性 対 同一性拡散 → 忠誠(自分で選んだものを大切にし続ける力)
- 成人期前期:親密性 対 孤立 → 愛(お互いを大切にし合う関係を続ける力)
- 壮年期:生殖性 対 停滞 → 世話(次の世代や育ててきたものを大切にする気持ち)
- 老年期:統合 対 絶望 → 英知(人生を「これでよかった」と穏やかに見つめる力)
人生を段階に分けて捉える理論としては、ハヴィガーストの発達課題も知られています。
参考文献
- E・H・エリクソン(著)仁科弥生(訳)(1977)『幼児期と社会 1』みすず書房
- E・H・エリクソン、J・M・エリクソン(著)村瀬孝雄・近藤邦夫(訳)(2001)『ライフサイクル、その完結[増補版]』みすず書房




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