赤ちゃんが親の姿が見えなくなると泣き出し、戻ってくると抱っこを求める。
少し大きくなると、親のそばを離れて遊びながら、ときどき振り返って親がいるかを確かめる。
このような子どもの行動を、生き延びるために備わった仕組みとして説明したのが、愛着理論です。

愛着理論は、イギリスの精神科医ボウルビィが理論の枠組みをつくり、アメリカの発達心理学者エインズワースが、実験を通して愛着の個人差を明らかにしました。
愛着とは、不安なときに「この人がいれば安心できる」と思える、特定の人との絆のことです。そのような拠り所があるから、子どもは安心して外の世界を探索できると考えられています。
- 愛着(アタッチメント)とは、特定の人との間に結ばれる情緒的な絆のこと。愛着の相手は母親に限らない
- ボウルビィは、親の近くにいようとする行動を生き延びるための生まれつきの仕組みと考え、愛着の発達4段階や内的作業モデルを示した
- エインズワースは、探索の拠り所となる安全基地の考え方を示し、ストレンジ・シチュエーション法で愛着の個人差を調べた
- 愛着のタイプは、現在、回避型・安定型・アンビバレント型・無秩序・無方向型の4つに整理されている
愛着理論とは

愛着(アタッチメント)とは、特定の人との間に結ばれる情緒的な絆のことです。
そして、愛着理論は、この絆がどのように生まれ、子どもの心の発達や、その後の人間関係にどう関わるのかを説明した理論です。
ボウルビィが理論の枠組みをつくり、エインズワースが実験によってそれを確かめ、発展させました。

愛着理論でいう愛着は、「この人がいれば安心できる」という、特定の人への心のつながりを指します。親子の仲の良さや、「好き」という気持ちの強さを表すものではありません。
愛着と愛着行動
愛着理論では、「愛着」と「愛着行動」を区別します。
- 愛着:特定の人との間に結ばれる、目に見えない情緒的な絆
- 愛着行動:その人との近さを保ったり、取り戻したりするための、目に見える行動
- 親が部屋を出ていくと、泣いて後を追う
- 知らない人に話しかけられて、親の足にしがみつく
- 転んだあと、親のところに走っていって抱っこを求める
愛着行動は、疲れや痛み、見知らぬ人、養育者がいないことなど、子どもが不安を感じたときに強まります。
安心を取り戻すと愛着行動はおさまり、子どもはまた遊びに戻っていきます。

わかりやすく言えば、愛着行動は「安心できる人のところに戻るための行動」で、愛着はその行動を支えている「絆そのもの」です。
愛着の相手
ボウルビィは、愛着の相手として、母親(または継続して母親の役割を担う人)を特に重視しました。 当時は、母親が主に子育てを担うのが一般的だったという時代背景もあります。
現在では、愛着の相手は母親に限らず、父親や祖父母、保育者など、子どもと継続的に関わり、困ったときに応えてくれる人もなりうると考えられています。 また、子どもは1人とだけでなく、複数の人と愛着関係を築くとされています。
ボウルビィの愛着理論

ボウルビィは、イギリスの精神科医・精神分析家です。
1950〜1980年代にかけて、愛着理論の土台となる次のような考え方を示しました。
- 愛着行動は、生き延びるために生まれつき備わった仕組みである
- 愛着は、4つの段階を経て発達する
- 愛着の経験は、内的作業モデルとして心に残る
愛着理論が生まれた背景
ボウルビィは、精神分析家のメラニー・クラインの指導を受けて、精神分析を学びました。
ただ、子どもの心の問題を心の中の空想から説明する当時の精神分析に対して、ボウルビィは、親と離れるといった現実の出来事を重視しました。
1951年に世界保健機関(WHO)に提出した報告書では、幼いころに母親(または母親の役割を担う人)との関係を奪われることが、子どもの心の発達に深刻な影響を与えると主張しました。
このような状態を、母性剥奪(マターナル・デプリベーション)といいます。
また、入院などで親から引き離された幼い子どもたちを観察し、次のような順で反応が現れることを示しました。
- 抗議:泣き叫び、親を探し回る
- 絶望:泣く元気もなくなり、ふさぎこむ
- 離脱:落ち着いたように見えるが、親と再会しても無関心な態度をとる
当時は、子どもが母親を慕うのは「授乳によって空腹を満たしてもらえるから」だという考え方が主流でした。
これに対してボウルビィは、ローレンツの刷り込みなど動物行動学の知見をもとに、親の近くにいようとする行動は、外敵から身を守り生き延びるために、生まれつき備わった仕組みだと考えました。

ひと言でいうと、子どもが親を求めるのは「授乳によって空腹を満たすため」ではなく「安全のため」だ、というのがボウルビィの考えです。
愛着の発達4段階
ボウルビィは、愛着が生まれてから3歳前後にかけて、4つの段階を経て発達すると考えました。
| 段階 | 年齢の目安 | 子どもの様子 |
|---|---|---|
| 第1段階 誰にでも反応する | 誕生〜生後8〜12週ごろ | 誰に対しても、目で追う・微笑む・泣くなどの反応を同じように示す |
| 第2段階 特定の人を見分ける | 生後12週〜6か月ごろ | いつも世話をしてくれる人に、よく微笑んだり声を出したりするようになる |
| 第3段階 特定の人に自分から近づく | 生後6か月〜2、3歳ごろ | 養育者の後を追う、離れると泣く(分離不安)、知らない人を警戒する(人見知り) |
| 第4段階 相手の都合も考えて関係を調整する | 3歳前後〜 | 養育者にも都合があることを理解し、「すぐ戻る」とわかれば離れていても待てる |
第3段階は、愛着がはっきり形になる時期です。
人見知りや後追いが激しくなるのは、特定の人との愛着が育っているサインとも言えます。
第4段階は、正式には「目標修正的な協調性の形成」と呼ばれます。
「目標修正的」とは、相手の目的に合わせて、自分の目的を修正できるという意味です。

「ママはお買い物に行って、ごはんの前に帰ってくる」と理解して待てるのは、この段階です。
内的作業モデル
内的作業モデルとは、愛着の経験をもとに心の中につくられる、「自分」と「他者」についてのイメージのことです。
ボウルビィは、子どもが養育者との関わりを重ねるうちに、次のような問いへの答えを心の中に持つようになると考えました。
- 他者について:困ったとき、この人は助けてくれるか
- 自分について:自分は、助けてもらえる存在か
求めたときに応えてもらえる経験を重ねた子どもは、「人は頼れる」「自分は大切にされる存在だ」というイメージを持ちやすくなります。反対に、応えてもらえない経験が続くと、「頼っても無駄だ」「自分は助けてもらえない」というイメージを持ちやすくなります。
このイメージは、本人が意識しないところで、新しい人と出会ったときの予測や期待として働きます。

ひと言でいうと、内的作業モデルとは、養育者との関わりを通して身につく、その後の人との関わり方の指針です。
ボウルビィは、愛着は一生を通じて見られるものだと考えており、のちに大人の恋愛関係などにも子どものころと似た愛着のパターンが見られるという研究も行われています。
この考え方は、エリクソンのライフサイクル論でいう乳児期の「基本的信頼」とも重なります。
エインズワースの研究

メアリー・エインズワースは、アメリカで活躍した発達心理学者です。
エインズワースは、ボウルビィの理論を、実際の母子の観察で確かめ、愛着の「質」には一人ひとり違いがあることを明らかにしました。
次の3つは、エインズワースの研究から生まれたものです。
- 安全基地
- ストレンジ・シチュエーション法
- 愛着のタイプ(回避型・安定型・アンビバレント型)
ボウルビィが理論を考え、エインズワースが観察で確かめて個人差を明らかにした、という役割分担で整理すると混乱しにくくなります。
安全基地
安全基地とは、子どもが安心して外の世界を探索するための拠り所となる存在のことです。
安全基地は、エインズワースが母子の観察を通して打ち出した考え方で、ボウルビィもこれを愛着理論の中心に取り入れました。
子どもは、安全基地となる人がそばにいると、そこから離れて遊び回ります。
そして、不安になると戻ってきて安心を取り戻し、また探索に出かけていきます。
- 公園で遊びながら、ときどき振り返って親がいるかを確かめる
- 知らない犬にほえられて、親のところに駆け戻る
- 親に抱っこされて落ち着くと、また砂場に戻っていく
子どもが成長すると、安全基地は心の中にも持てるようになります。
「困ったら助けてもらえる」という安心感が心に根づくと、養育者がその場にいなくても、離れて過ごしたり新しいことに挑戦したりできるようになります。

つまり、いつでも安心して戻れる安全基地があることで、子どもは親から離れて冒険できるようになります。
ストレンジ・シチュエーション法
ストレンジ・シチュエーション法とは、1歳ごろの子どもを、見慣れない部屋で養育者と分離・再会させ、そのときの反応から愛着のタイプを調べる実験方法のことです。
実験は、子どもが養育者を安全基地にして遊べているか、分離のときにどう反応するかを観察するため、次のような8つの場面で行われました。
- 子どもと養育者が、おもちゃのある見慣れない部屋に入る
- 子どもが部屋の中で遊ぶ(養育者はそばにいる)
- 見知らぬ人が入ってきて、養育者と話したあと、子どもに近づく
- 養育者が部屋を出ていく(1回目の分離。見知らぬ人と2人きり)
- 養育者が戻ってくる(1回目の再会)
- 養育者が再び出ていき、子どもは部屋にひとりきりになる(2回目の分離)
- 見知らぬ人が戻ってくる
- 養育者が戻ってくる(2回目の再会)
特に重視されたのは、養育者が戻ってきた再会の場面で、子どもがどうふるまうかです。
子どもが強く泣いて混乱したときは、分離の場面を短く切り上げるようになっています。
愛着の4つのタイプ
エインズワースは、ストレンジ・シチュエーション法での反応の違いから、子どもの愛着をタイプに分けました。現在は、次の4つのタイプで整理されています。
| タイプ | 分離のとき | 再会のとき |
|---|---|---|
| 回避型 (Aタイプ) | あまり泣かない | 養育者を避ける、目を合わせない |
| 安定型 (Bタイプ) | 泣いたり、探したりする | 喜んで迎え、すぐに落ち着いて遊びに戻る |
| アンビバレント型 (Cタイプ) | 強く泣き、混乱する | くっつきたがるのに、怒って押しのける |
| 無秩序・無方向型 (Dタイプ) | 一貫しない | 近づきかけて固まるなど、ちぐはぐな行動をとる |
回避型(Aタイプ)
- 養育者が部屋を出ていっても、気にせずおもちゃで遊び続ける
- 養育者が戻ってきても、背を向けて近づこうとしない

回避型の子どもは、分離のときにあまり混乱を見せず、再会しても養育者を避けるようなふるまいをします。
エインズワースの観察では、回避型の子どもの養育者は、子どもが甘えたりくっついたりしようとすると、それを拒むことが多い傾向がありました。
求めても応えてもらえない経験が重なるなかで、愛着行動を抑えることで養育者との関係を保とうとするのが回避型だと考えられています。
安定型(Bタイプ)
- 養育者が出ていくと泣くが、戻ってくると抱っこされてすぐに泣きやむ
- 落ち着いたあと、また自分からおもちゃで遊び始める

安定型の子どもは、分離のときは泣いたり探したりしますが、再会すると養育者に近づいて安心し、また遊びに戻ります。
エインズワースの観察では、安定型の子どもの養育者は、子どものサインに気づいて、タイミングよく適切に応える傾向がありました。
このような養育者の関わり方を、敏感性といいます。
アンビバレント型(Cタイプ)
- 養育者が出ていくと、激しく泣いてなかなか泣きやまない
- 養育者が戻ってくると抱っこを求めるのに、抱かれると怒って体をのけぞらせる
アンビバレント型は「抵抗型」「両価型」とも呼ばれ、「くっつきたい」と「怒り」のような相反する気持ちを同時に見せるのが特徴です。

アンビバレント型の子どもは、分離のときに強く混乱し、再会しても落ち着くまでに時間がかかります。養育者のそばを離れにくく、探索もあまりしない傾向があります。
エインズワースの観察では、アンビバレント型の子どもの養育者は、応えるときと応えないときの差が大きく、関わり方が一貫しない傾向がありました。
いつ応えてもらえるかわからないため、愛着行動を強く出し続けて、養育者を引きつけておこうとするのがアンビバレント型の特徴です。
無秩序・無方向型(Dタイプ)
- 養育者に近づこうとして、途中で急に動きを止めて固まる
- 顔をそむけたまま、養育者に後ずさりで近づく
無秩序・無方向型は、3つのタイプのどれにも当てはまらない子どもたちを調べるなかで、メインとソロモンが見出したタイプです。

無秩序・無方向型の子どもは、近づこうとして急に固まったり、顔をそむけたまま近づいたりと、どうふるまえばいいのか定まらない行動が見られるのが特徴です。
無秩序・無方向型の子どもは、養育者自身がおびえていたり、子どもをおびえさせたりする関わりとの関連が指摘されています。
本来は安心をくれるはずの人が、同時に不安の源にもなっているため、近づくことも離れることもできずに混乱してしまうのではないか、と言われています。
まとめ
- 愛着(アタッチメント)とは、特定の人との間に結ばれる情緒的な絆のこと。不安なときに「この人がいれば安心できる」と思える心のつながりで、相手は母親に限らない
- 愛着行動は、その人との近さを保ったり取り戻したりするための行動で、子どもが不安を感じたときに強まる
- 愛着行動は、生き延びるために生まれつき備わった仕組み
- 愛着の発達4段階:誰にでも反応する段階から、相手の都合も考えて関係を調整する段階へと発達する
- 内的作業モデル:養育者との関わりで身につく、その後の人との関わり方の指針
- 分離への反応:抗議 → 絶望 → 離脱
- 安全基地:いつでも安心して戻れる拠り所があるから、子どもは外の世界を探索できる
- ストレンジ・シチュエーション法:養育者との分離と再会の場面での反応から、愛着のタイプを調べる実験
- 愛着のタイプ:回避型・安定型・アンビバレント型(のちに無秩序・無方向型が加わり4タイプ)
- 敏感性:子どものサインに気づき、タイミングよく応える養育者の関わり方
参考文献
- J・ボウルビィ(著)黒田実郎・大羽蓁・岡田洋子・黒田聖一(訳)(1991)『母子関係の理論 I 愛着行動[新版]』岩崎学術出版社
- Ainsworth, M. D. S., Blehar, M. C., Waters, E., & Wall, S. (1978). Patterns of attachment: A psychological study of the strange situation. Lawrence Erlbaum.







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