精神分析をわかりやすく解説!ー③防衛機制ー

心理学を学ぶ

防衛機制は、精神分析を学ぶうえで避けて通れない考え方のひとつです。「抑圧」「投影」といったことばは心理学の入門書でもよく登場しますし、臨床心理士・公認心理師の学習でも、種類や違いが問われやすいテーマです。

このシリーズの第1回では、フロイトが心を「イド・自我・超自我」という3つの働きで捉えたこと(構造論)を見てきました。防衛機制は、その3つがぶつかり合って心が不安定になったときに、自我が自分を守ろうとして無意識に働かせるしくみのことです。

この記事では、防衛機制とは何かを、「心が何をしているのか」という視点で全体を6つのグループに整理してみました。また、似ていて混同しやすい機制の違いや、防衛機制を学ぶうえで気をつけたい点にも触れます。

この記事からわかること
  • 防衛機制とは何か
  • こころの反応から見る、防衛機制の6つのグループ
  • 主要な防衛機制の意味について
  • 混同しやすい防衛機制の見分け方

防衛機制とは?

まずは、防衛機制ということばの意味から整理していきます。

防衛機制とは、受け入れがたい状況や強い不安に直面したとき、自我がその不安をやわらげるために無意識に働かせる心のしくみのことです。

防衛機制という考え方は、フロイトが神経症の患者を診るなかで用いはじめ、その後、娘のアンナ・フロイトが著書『自我と防衛機制』(1936年)で整理しました。アンナ・フロイトは、抑圧・退行・反動形成・打ち消し・投影・取り入れ・昇華などを含む10種類の機制を挙げ、防衛機制を精神分析のなかのまとまった主題として位置づけました。

心の葛藤から不安が生まれる

構造論では、心のなかで3つの働きがせめぎ合っていると考えます。

  • 本能的な欲求をすぐ満たそうとする「イド
  • 規範や理想をもとに、それを抑えようとする「超自我
  • その間で現実的な落としどころを探す「自我

(フロイトの構造論については、こちら)

イドの欲求と超自我の禁止がぶつかったり、外の現実がそれを許さなかったりすると、自我は板挟みになります。このとき自我が感じる「このままではまずい」という感覚が、不安です。フロイトは、この不安を合図にして、自我がさまざまなやり方で自分を守ろうとすると考えました。そのやり方の総称が、防衛機制です。

心は何を守ろうとしているのか

防衛機制が守っているのは、大きく言えば「心の安定」です。もう少し細かく見ると、自分を保っている感覚(自我)や、自分を価値ある存在だと感じる気持ち(自尊心)、「世界はなんとか耐えられる場所だ」という感覚などが、脅かされそうになったときに働きます。

例えば、大事な発表を前に「緊張していないよ」と言う人は、
「緊張して失敗するかもしれない」という不安を意識から遠ざけることで、落ち着いて発表に向かえる状態を保とうとしている、
と考えることもできます。

防衛機制は「悪いもの」ではない

防衛機制はもともと、誰もが日常的に使っている正常な心の働きです。
急ブレーキのときに体を守るエアバッグのように、衝撃が大きいときほど自動的に働き、心が一度に受け止めきれない負荷を、その場でやわらげてくれます。
しかし、特定の防衛機制に偏りすぎたり、いつも同じやり方だけで対処し続けたりして、かえって生活や人間関係がうまくいかなくなると問題が起きてしまします。

心は防衛機制で何をしているのか

この記事では、「心が何をしているのか」というやり口に注目して、主な防衛機制を6つのグループに分けてみました。
※なお、これは理解のための便宜的な整理で、学術的に決まった分類ではありません。実際には一つの行動に複数の機制が重なることもあります。

グループ(心の動き)防衛機制ひとことで言うと
つらい現実・感情から距離を取る抑圧受け入れがたい記憶や欲求を無意識に押し込める
否認目の前の事実をなかったことのように扱う
逃避つらい現実や課題から物理的・心理的に離れる
解離耐えがたい体験で感覚や記憶の一部が切り離される
感情・欲求を別の対象へ向ける投影自分の感情を相手のものとして感じ取る
置き換え
(転位)
感情を、より安全な別の相手や対象に向ける
行動化言葉にする代わりに、行動で感情や葛藤を表す
受動攻撃怒りや不満を正面からでなく遠回しに表す
本音を別の形に変えて出す反動形成抑えた気持ちと正反対の態度を強く押し出す
打ち消しまずい言動を反対の行動でなかったことにする
合理化うまくいかない事実にもっともらしい理由を後づけする
知性化感情を理屈や知識の話に置き換えて距離を取る
昇華出しにくい衝動を社会的に受け入れられる形へ変える
心や体に別の形で現れる退行発達の早い段階の幼いふるまいに戻る
身体化心理的な苦痛が身体の症状として現れる
別の方法で自分を立て直す補償劣等感のある領域を別の得意な領域で埋め合わせる
先取り
(予期)
予想される不安に前もって備えて心の準備をする
ユーモアつらい状況を笑いに変えて受け止める
他者と自分を重ねる同一化憧れ・尊敬する相手をモデルにして、その特徴を自分のものにする
取り入れ他者の考え方・価値観を自分の内側に取り込む

つらい現実・感情から距離を取る

受け止めきれない出来事や感情を、意識にのぼらせない、あるいは感じないようにして、心の均衡を保つグループです。

例えば、「大きな病気の告知など、強いショックを受けた場面」において、

抑圧:思い出すとつらい記憶や認めたくない欲求を、無意識に押し込めて意識にのぼらせない働き。フロイトが最初に注目した防衛機制例)告知の前後のやりとりを聞かれても、記憶がところどころ思い出せない。否認:目の前の受け入れがたい事実そのものを、なかったことのように扱う働き。例)「検査の間違いではないか」と、医師の説明を受けとめない。逃避:つらい対象から物理的・心理的に距離を置く働き。例)その話題になると席を外す。考えないよう別のことで気を紛らす。解離:耐えがたい体験のとき、感覚や記憶の一部が切り離される働き。例)その場面を「自分が遠くから眺めていた」ように感じ、現実感がうすくなる。

感情・欲求を別の対象へ向ける

心のなかで生じた苦しさを、そのままの相手ではなく、外の誰かや何かに移すグループです。

例えば、「上司から理不尽に叱られて、強い怒りがわいた場面」において、

投影:自分のなかの認めたくない感情を、自分のものとしてではなく相手のものとして感じ取る働き。例)自分の怒りを認めず、「あの人こそ私に敵意を持っている」と感じる。置き換え
(転位):
本来の相手には向けられない感情を、より安全な別の相手や対象に向けて発散する働き。例)上司には言えず、帰宅して家族や後輩にきつく当たる。行動化:言葉で気持ちを考えたり表現したりする代わりに、行動によって感情や葛藤を表す働き。例)怒りを言葉にできず、物を強く置く・席を立つといった行動で示す。受動攻撃:怒りや不満を、正面からではなく遠回しに表す働き。例)表向きは従いながら、頼まれた仕事をわざと遅らせる・返事を曖昧にする。

本音を別の形に変えて出す

抑えた気持ちを、正反対の態度や、もっともらしい理屈、社会に受け入れられる活動などに姿を変えて表すグループです。

例えば、「職場のある同僚に、強い苦手意識を持っている場面」において、

反動形成:抑えた気持ちとは正反対の態度を強く押し出す働き。例)その人にだけ、必要以上に愛想よく丁寧に接し続ける。打ち消し:してしまった言動を、反対の行動で後から取り消そうとする一回的なふるまい。例)つい冷たい態度をとったあと、埋め合わせるように過剰に親切にする。合理化:うまくいかない事実や本当の動機に、納得できる理由を後から用意する働き例)避けているのに、「忙しくて話す時間がないだけ」と理由をつける。知性化:感情そのものには触れず、理屈や知識の話に置き換えて距離を取る働き。例)「相性は性格の組み合わせの問題だ」と一般論で片づける。昇華:受け入れにくい衝動や感情を、社会的に受け入れられる形へ変換する働き。例)いらだちのエネルギーを、仕事の成果づくりや運動に向ける。

心や体に別の形で現れる

強いストレスがかかったとき、心の状態が、幼いふるまいや体の症状といった別の形をとって表に出るグループです。

例えば、「受験や異動など、大きなプレッシャーが続く場面」において、

退行:発達のより早い段階の、幼いふるまいに戻る働き。例)年齢より幼く、人に甘えたり、些細なことで泣いたり駄々をこねたりする。身体化:心理的なつらさが、身体の症状として現れる働き。例)気持ちのつらさが言葉にならず、頭痛や腹痛、吐き気などが続く。

別の方法で自分を立て直す

つらさを直接なくすのではなく、埋め合わせや心の準備、笑いといった形でバランスを取り戻すグループです。

例えば、「人前での発表で失敗して、落ち込んだ場面」において、

補償:劣等感のある領域を、別の得意な領域で埋め合わせる働き。例)発表は苦手でも、資料づくりや裏方の準備で力を発揮し、自信を保つ。先取り
(予期):
予想される不安に、前もって備えて心の準備をする働き。例)次に向けて想定問答を作り、繰り返し練習する。ユーモア:つらい状況を、笑いに変えて受けとめる働き。例)「盛大にかんだけど、つかみは完璧だった」と笑い話にする。

他者と自分を重ねる

強く、安定して感じられる相手に自分を重ねることで、心を支えるグループです。

例えば、「新しい環境になじめず、自信が持てない場面」において、

同一化:憧れたり尊敬したりする相手を「自分のモデル」にして、その人の特徴やふるまいを自分のものとして取り入れる働き。例)憧れの先輩の話し方や仕事の進め方が、いつのまにか自分にも似てくる。取り入れ
(取り込み):
他者の考え方や価値観、態度などを、自分の内側に取り込み、自分自身のものとして受け入れる働き。例)先輩の「こういうときはこう考える」という価値観を、そのまま自分の判断基準にする。

混同されやすい防衛機制の違い

ここまでに出てきた、特に混同しやすいペアだけを取り出してまとめます。

ペア共通点違いの見分け方
抑圧どちらもつらいものを見ないようにする「内面の記憶・感情」を押し込める
否認「外の事実」を認めない
投影どちらも心の苦しさを外に出す感情の「持ち主」をすりかえる(責任転嫁)
置き換え感情の「向かう相手」を変える(八つ当たり)
置き換えどちらも感情をため込まずに出す感情を「別の対象」に向ける
行動化言葉にする代わりに「行動」で感情や葛藤を表す
同一化どちらも他者の特徴を自分に取り込む「あの人のようになろう」と相手をモデルにする働き
取り入れその人の考え方や価値観を自分の内側に取り込む働き
合理化どちらも頭を使って気持ちを処理する出来事への「都合のよい理由づけ」
知性化感情を「理屈・知識の話にすりかえる」
反動形成どちらも本心と反対の行動をとる反対の態度が「続く」
打ち消し特定の言動を「後から取り消す」一回的な行動
昇華どちらもつらい気持ちへの対処として別の行動をとる受け入れにくい衝動や感情を社会的に受け入れられる形へ変換する
気晴らしつらい気分から一時的に注意をそらす・休むこと

防衛機制は無意識の働きなので、ある行動ひとつを取り出して「これは○○だ」と決めつけられるものではありません。

まとめ

防衛機制は、イド・自我・超自我の葛藤から不安が生じたときに、自我がその不安をやわらげようとして無意識に働かせる心のしくみです。この記事では、その働きを「つらい現実から距離を取る」「感情を別の対象へ向ける」「本音を別の形に変えて出す」「心や体に別の形で現れる」「別の方法で立て直す」「他者と自分を重ねる」という6つのグループに分け、抑圧・否認・投影・置き換え・反動形成・合理化・昇華といった主な機制が、同じ場面でどう違って現れるかを見てきました。

抑圧と否認、投影と置き換え、同一化と取り入れのように、似ていて混同しやすい機制は、「何に向かう働きなのか」を意識すると整理しやすくなります。

この記事のまとめ
  • 防衛機制とは、自我が不安をやわらげるために無意識に働かせる心のしくみ。
  • フロイトが用い、アンナ・フロイトが『自我と防衛機制』(1936年)で整理。
  • 構造論でいうイド・超自我・外の現実の板挟みで自我が感じる不安が、防衛機制の働く合図になる
  • 「心が何をしているか」で見ると、防衛機制は「距離を取る」「別の対象へ向ける」「形を変えて出す」「心や体に別の形で現れる」「別の方法で立て直す」「他者と重ねる」の6つに整理できる
  • 防衛機制は誰もが使う正常な働き。「成熟した防衛」「未熟な防衛」という分類はあるが、行動ひとつで決めつけたり、人の優劣やラベリングに使ったりするものではない

防衛機制を知っていると、自分や周りの人の「なぜかそうしてしまう」ふるまいを、責めるのではなく「心が何かを守ろうとしているのかもしれない」と眺めやすくなります。

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