
何度もあの時なんであんなことを言ってしまったんだろうと考えてしまう

また同じ失敗をするんじゃないかと気になって仕方ない

気づいたら、さっきの場面を何度も頭の中で再生してしまう
誰かに言われた一言や、自分のちょっとした失敗が、気づけば何度も頭の中で繰り返し浮かんでくるという経験をしたことがある方は多いのではないでしょうか。
実はこうした、嫌な出来事を何度も思い出して考え込んでしまう現象は、心理学では「反すう」と呼ばれる思考のパターンとして説明されています。この記事では、反すうがなぜ起こるのか、そのしくみと、少しずつ距離を置くための工夫を一緒に見ていきたいと思います。
- 反すうとは何か
- 反すうが起こる仕組み
- 反すうが起こりやすい場面
- 反すうと少しずつ距離を置くための7つの工夫
「反すう」とは

心理学では嫌な出来事を何度も思い出して考え込んでしまう思考パターンを「反すう」と呼びます。この概念を提唱した心理学者のノーレン・ホークセマは、反すうを次のように説明しています。
反すうとは?:自分の苦しい気持ちや、その原因・結果について、具体的な解決に向けた行動を伴わないまま、同じ内容の考えを繰り返し続けてしまう思考のパターン。
具体例:友人からの何気ない一言が気になって、家に帰ってからも「さっきのはどういう意味だったんだろう」「自分は嫌われているのかもしれない」と、同じやり取りを何度も頭の中で再生してしまう。
もちろん、嫌な出来事を振り返ること自体が悪いわけではありません。「次はどうすればいいだろう」と考えて、具体的な行動につながるなら、それは問題解決のための振り返りともいえます。一方で、「なぜ自分はあんなことをしたんだろう」「どうしてこんな目に遭ったんだろう」と同じ内容を繰り返し考え続け、なかなか前に進めなくなっているなら、「反すう」に近い状態かもしれません。

話の内容を一度振り返るだけなら自然なことですが、答えの出ないまま同じ場面を繰り返し思い出し続けてしまうと、そこから抜け出しにくくなります。
反すうは、特別な病気のサインというより、多くの人に起こりうる思考のクセの一つと考えられています。
反すうが起こる仕組み

人は、危険や痛みを伴う出来事を「重要な情報」として優先的に記憶しやすく、同じ程度のポジティブな出来事よりも、ネガティブな出来事の方が心理的な影響が大きくなりやすいとされています。心理学ではこれを「ネガティビティ・バイアス」と呼びます。

次に同じような失敗を避けるための備えとして、脳がこうした記憶を優先的に扱っている面もあるのではないかと思われます。
近年の脳科学の研究では、反すうには「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれる脳のネットワークが関わっていることが示されています。ただし、反すうとDMNの関係は単純なものではなく、複数の脳領域やネットワークの働きが関係していると考えられています。
DMNは、ぼんやりしているときや、自分自身のことを考えているとき、過去の出来事を思い返しているときなどに活動するネットワークです。反すうが強い人ほどこのDMNの活動が過剰になりやすいことが報告されています。同時に、考えを切り替えたり抑えたりする脳の働きがうまく機能しないと、一度浮かんだネガティブな考えから距離を取りにくくなります。
さらに、心理学には「シロクマのことを考えないでください」と言われた人ほど、かえってシロクマのことばかり考えてしまったという有名な実験があります。何かを考えないようにしようとすること自体が、逆にその考えを頭に留めてしまうのです。

反すうは、意志の弱さや気の持ちようの問題というより、多くの人に起こりうる脳の仕組みの結果だと言えます。
反すうが起こりやすい場面
反すうは、以下のような場面で特に始まりやすいと言われています。
- 一人になる時間(通勤中、入浴中、寝る前など)
- 特にやることがなく、手持ち無沙汰なとき
- 心身が疲れているとき
- SNSなどで他人と自分を比べたあと
このような場面では、注意をそらしてくれる作業や刺激が少なく、頭の中が一つの考えに向かいやすくなるのではないかと思われます。また心身が疲れていると、先ほど触れた「考えを切り替える働き」も弱まりやすいため、余計に同じ考えから抜け出しにくくなる可能性があります。

自分がどんな場面で反すうしやすいかをあらかじめ知っておくこと自体が、思考のループにいち早く気づくための、一つの手がかりになると思います。
反すうと少しずつ距離を置くための7つの工夫

反すうを完全になくすことは難しくても、そこから少しずつ距離を置くための工夫はいくつかあります。
①身体を動かして、注意を「今ここ」に戻す
散歩や軽いストレッチ、家事など、今できる作業に意識を向ける方法です。適度な運動によって、そのとき感じている反すうの度合いが下がることが実験でも報告されています。激しい運動でなくても、短時間軽く体を動かして注意を今の感覚に戻すだけでも助けになると考えられています。
②呼吸や感覚に意識を向ける(マインドフルネス的なアプローチ)
今の呼吸や、足の裏の感覚、周囲の音など「今、ここ」で起きている身体の感覚や思考、感情にも注意を向け、良い悪いといった判断を加えずに観察する方法です。雑念が浮かんでも否定せず、また今の感覚に意識を戻す、という繰り返しが基本になります。
③思考を書き出す(ジャーナリング)
頭の中だけで堂々巡りしている考えを、紙やスマートフォンに書き出す方法です。感情や出来事を書き出す「筆記療法(エクスプレッシブ・ライティング)」に関する研究では、反すうの度合いが下がったとする報告があります。

状況や気持ちをできるだけ具体的に書き出し、書くたびに少し違う角度から眺めてみることがポイントです。
④「今、反すうしているな」と気づく言葉をかける(セルフトーク)
浮かんできた考えに気づいたら、頭ごなしに打ち消そうとするのではなく、「今わたしは反すうしているな」と心の中で言葉にしてみる方法です。
考えを無理に止めようとするより、まず「今、反すうが始まっている」と気づくことの方が、思考との距離を作りやすいのではないかと思われます。
あわせて、出来事の事実と、それに対する自分の評価を切り分けて考えてみることも一つの工夫です。
例えば、「会議で言葉に詰まった」のは事実、「だから自分はダメだ」は自分の感じた評価、というように分けて考えると、事実そのものは思っているより小さいことに気づける場合もあります。
⑤十分な睡眠と休息をとる
睡眠は、その日にあった出来事や感情を脳が整理する時間でもあります。十分な睡眠がとれていないと、反すうが悪化しやすいとも言われています。寝る直前まで考え込んでしまいそうなときは、気になることを先に紙に書き出しておくなど、頭の中の内容を一度外に出してから休むことも助けになるかもしれません。
⑥自分をいたわる態度を育てる(セルフ・コンパッション)
自分に対して厳しい評価を重ねることは反すうを助長しやすい一方、自分をいたわる態度(セルフ・コンパッション)を持てているほど、反すうを介して抑うつや不安の症状が和らぐ方向に働く可能性があるという報告もあります。
⑦一人で抱え込まず、専門家に相談することも選択肢に
反すうがあるからといって、それがすぐに病気を意味するわけではありませんが、反すうは抑うつや不安の症状と関連することがあると言われています。

毎晩眠れないほど同じ考えを繰り返してしまう場合など、気になる状態が続くときは、医療機関などに相談してみるのも1つです。
まとめ
- 反すうとは、苦しい出来事や気持ちについて、答えの出ない考えを繰り返し続けてしまう思考のパターン
- 嫌な出来事を優先的に記憶する仕組みや脳の働き、考えないようにしようとするほど意識してしまう性質などが、反すうの背景にあると考えられている
- 一人の時間や疲れているときなど、反すうが起こりやすい場面をあらかじめ知っておくことも一つの手がかりになる
- 身体を動かす、書き出す、自分をいたわるなど、反すうと少しずつ距離を置くための工夫がいくつかあり、つらさが続く場合は専門家への相談も選択肢の一つ
反すうには、記憶や脳の仕組みからも説明できる背景があります。一度に全部を試そうとせず、まずは自分に合いそうなものから、少しずつ取り入れてみてはいかがでしょうか。
参考文献
- Nolen-Hoeksema, S. (1991). Responses to depression and their effects on the duration of depressive episodes. Journal of Abnormal Psychology, 100(4), 569–582.
- Wegner, D. M., Schneider, D. J., Carter, S. R., & White, T. L. (1987). Paradoxical effects of thought suppression. Journal of Personality and Social Psychology, 53(1), 5–13.
- Hamilton, J. P., Farmer, M., Fogelman, P., & Gotlib, I. H. (2015). Depressive rumination, the default-mode network, and the dark matter of clinical neuroscience. Biological Psychiatry, 78(4), 224–230.
- Bernstein, E. E., & McNally, R. J. (2017). Acute aerobic exercise helps overcome emotion regulation deficits. Cognition and Emotion, 31(4), 834–843.




コメント