- 一人で歩けるようになる
- 文字を覚える
- 仕事に就く
- 定年後の暮らしに慣れる
人生のどの時期にも、その時期ならではの取り組みがあります。
このような取り組みを年齢ごとに整理したのが、ハヴィガーストの発達課題です。
発達課題とは、人生のそれぞれの時期に達成することが期待される課題のことです。
ハヴィガーストは人生を6つの段階に分け、身体の成熟・社会からの要請・本人の価値観という3つの要因から、段階ごとの課題をまとめました。課題には当時の社会の価値観も反映されているため、現在は人生の各時期を理解するための目安として読まれています。
- 発達課題とは、人生のそれぞれの時期に達成が期待される課題のこと
- ハヴィガーストは、人生を乳幼児期から老年期までの6つの段階に分け、段階ごとに課題を示した
- 発達課題は、身体の成熟・社会からの要請・個人の価値観と願望の3つの要因から生まれる
- ハヴィガーストは、3つの要因がそろった時期を「ティーチャブル・モーメント」として重視し、課題を最も学びやすい時期と考えた
ハヴィガーストの発達課題とは

発達課題とは、人生のそれぞれの時期に生じ、その時期に達成することが期待される課題のことです。
この考え方を体系的にまとめたのが、アメリカの教育学者ロバート・J・ハヴィガーストです。ハヴィガーストは、著書『Human Development and Education』(1953年、邦訳『人間の発達課題と教育』)のなかで、乳幼児期から老年期までの課題を具体的に示しました。
ハヴィガーストは、発達課題を次のように説明しています。
ある時期に生じる課題で、うまく達成できれば本人の幸福と、その後の課題の達成につながる。達成できなければ、本人の不幸や社会からの不承認、その後の課題の難しさにつながる。
つまり発達課題は、その時期だけで完結するものではなく、次の時期の課題の土台になると考えられています。
ハヴィガーストは教育学の立場から、「子どもにいつ、何を学ぶ機会を用意するとよいか」を考える手がかりとして発達課題を整理しました。そのため、課題は「歩く」「読み書きをする」「職業を選ぶ」のように、具体的な行動や役割の形で書かれているのが特徴です。
なお、「発達段階」は人生をいくつかの時期に区切ったもの、「発達課題」はそれぞれの時期に取り組む具体的な内容を指します。ハヴィガーストの理論では、6つの発達段階それぞれに、複数の発達課題が設定されています。
発達課題が生まれる3つの要因
ハヴィガーストは、発達課題が、
- 身体の成熟
- 社会からの要請
- 個人の価値観と願望
の3つから生まれると考えました。
| 要因 | 内容 | 課題の例 |
|---|---|---|
| 身体の成熟 | 体や脳が成長・変化することで生じる | 歩行の学習、中年期の体の変化への適応 |
| 社会からの要請 | その社会で、その年齢の人に期待される役割から生じる | 読み書き・計算の習得、市民としての責任 |
| 個人の価値観と願望 | 本人が大切にしたいこと、目指したいことから生じる | 職業の選択、自分なりの価値観の形成 |
多くの課題は、この3つが重なって生じます。たとえば読み書きの習得には、文字を見分けられるだけの脳の発達、学校で読み書きを学ぶという社会の仕組み、「本を読めるようになりたい」という本人の意欲がそろっています。

身体の成熟だけで課題が決まるのではなく、社会や本人の思いによっても課題の中身が変わる点が、ハヴィガーストの考え方の特徴です。
ティーチャブル・モーメント(教えるのに適した時期)
ハヴィガーストの理論でもう一つ大切なのが、ティーチャブル・モーメントという考え方です。
- 体の準備ができる(身体の成熟)
- 社会からも求められる(社会からの要請)
- 本人もやってみたいと思う(個人の価値観と願望)
この3つがそろった時期は、その課題を最も学びやすい時期だと考えられています。反対に、準備が整う前に教えようとしても、努力のわりに身につきにくいとされています。
時期ごとの発達課題一覧
ハヴィガーストは、人生を次の6つの段階に分けました。
| 発達段階 | 年齢の目安 | 主な発達課題 |
|---|---|---|
| 乳幼児期 | 0〜6歳ごろ | 歩行、話すこと、排泄のコントロール、善悪の区別 |
| 児童期 | 6〜12歳ごろ | 読み書き・計算、友だちとの付き合い、良心や道徳性の発達 |
| 青年期 | 12〜18歳ごろ | 親からの情緒的な自立、職業の選択と準備、価値観の形成 |
| 壮年初期 | 18〜30歳ごろ | 配偶者の選択、子どもの養育、職業に就くこと |
| 中年期 | 30〜60歳ごろ | 市民的・社会的責任の達成、経済的な生活の維持、10代の子どもへの援助 |
| 老年期 | 60歳ごろ以降 | 体力や健康の衰えへの適応、退職と収入減少への適応、配偶者の死への適応 |
乳幼児期(0〜6歳ごろ)の発達課題

乳幼児期は、体と脳が急速に成長し、生活の基本となる力と、人との関わりの土台がつくられる時期です。
主なテーマは、
- 体の基本的な働きの獲得
- 身の回りの世界の理解
- 人との関わりと善悪の芽生え
になります。
体の基本的な働きの獲得
- 歩行の学習
- つかまり立ちから、一人で歩けるようになる
- 固形の食べ物をとることの学習
- 離乳食から、大人に近い食事に移っていく
- 話すことの学習
- 「ワンワン、いた」のような二語文を話すようになる
- 排泄のコントロールの学習
- おむつが外れ、トイレで用を足せるようになる
- 生理的な安定の獲得
- 夜にまとまって眠り、昼に起きて過ごすリズムができる
これらの課題は、体や脳の成熟が前提になるものが中心です。
たとえば歩くことは、体の準備が整う前に練習させても身につきにくく、準備が整う時期に合わせて機会を用意することが大切になります。
身の回りの世界の理解
- 性の違いと慎みの学習
- 男の子と女の子の体の違いに気づき、人前では服を脱がなくなる
- 社会や物事についての簡単な概念の形成
- 「熱い・冷たい」「大きい・小さい」を言葉で言い分ける
言葉を覚えるのと並行して、子どもは身の回りの物事を区別して理解するようになります。体の違いに気づき、人前でのふるまい方を学ぶことも、この時期の課題に含まれています。
人との関わりと善悪の芽生え
- 両親・きょうだい・ほかの人との情緒的な結びつきの学習
- 泣いているきょうだいの頭を、なでてなぐさめる
- 善悪の区別の学習と良心の発達
- 叱られたいたずらを、次はしないように気をつける
家族との関わりのなかで、気持ちを通わせる経験を重ねる時期です。また、「してよいこと・いけないこと」を大人とのやりとりから学び、自分の中に良心の芽が育っていきます。
児童期(6〜12歳ごろ)の発達課題

児童期は、学校生活が始まり、学習の基礎と、友だちとの関係のなかでの社会性が育つ時期です。
主なテーマは、
- 学習と生活の基礎
- 自分自身との向き合い方
- 友だち・集団・ルールとの関わり
になります。
学習と生活の基礎
- 読み・書き・計算の基礎的な能力の発達
- 教科書を声に出して読み、九九を覚える
- 日常生活に必要な概念の発達
- 時計を読んで、家を出る時間を自分で考える
- ふだんの遊びに必要な身体的技能の学習
- なわとびや鉄棒で、友だちと同じ遊びができるようになる
学校教育という社会の仕組みから求められる課題が、一気に増える時期です。時間・お金・長さなどの概念も、学校の学習と日常生活の両方で使いながら身についていきます。
自分自身との向き合い方
- 成長する自分の体に対する健全な態度の形成
- 手洗いや歯みがきを、言われなくても自分からする
- 男子・女子としての社会的役割の学習
- 「男の子だから」「女の子だから」と言われる振る舞いを意識し始める
- 個人的な自立の達成
- 翌日の持ち物を、親に頼らず自分でそろえる
自分の体を大切に扱い、自分のことを自分で決めて行う力が育つ時期です。性別ごとの役割は、当時のアメリカ社会の考え方を反映した課題です。現在では、性別にとらわれず自分らしい振る舞いを考える方向で読みかえられることが多いと思います。
友だち・集団・ルールとの関わり
- 同年代の友だちと仲よくすることの学習
- けんかをしても、自分たちで話し合って仲直りする
- 良心・道徳性・価値判断の基準の発達
- 誰も見ていなくても、遊びのルールでずるをしない
- 社会集団や制度に対する態度の発達
- 学級会の多数決で決まったことに、反対意見だったとしても従う
家族の外に、友だちという新しい人間関係が広がります。友だちとの協力や衝突を通して、ルールを守る意味や、集団のなかでの自分のふるまい方を学んでいきます。
青年期(12〜18歳ごろ)の発達課題

青年期は、体が大人へと変化し、親から心理的に自立しながら、大人としての生き方を準備する時期です。
主なテーマは、
- 体の変化と新しい人間関係
- 親からの自立と将来の準備
- 社会の一員としての価値観
になります。
体の変化と新しい人間関係
- 同年代の男女との新しい、より成熟した関係の形成
- 男女混合の班で、文化祭の準備を進める
- 男性・女性としての社会的役割の達成
- 将来の自分の姿を、大人の男性・女性の生き方と重ねて考える
- 自分の体つきを受け入れ、体を有効に使うこと
- 背が伸びる・声が変わるといった変化を、自分の体として受け入れる
思春期の体の変化は、身体の成熟から生じる課題の代表です。同時に、異性も含めた友人との関係が、子どもの頃の遊び仲間とは違う、対等で深いものへと変わっていきます。
親からの自立と将来の準備
- 両親やほかの大人からの情緒的な自立
- 悩みごとを、親より先に友だちに相談する
- 経済的な自立についての自信の確立
- アルバイトで得たお金で、欲しいものを自分で買う
- 職業の選択と準備
- 将来就きたい仕事を考えて、進学先を選ぶ
- 結婚と家庭生活の準備
- 家事を手伝い、自分の生活を自分で回す力をつける
親に頼っていた生活から、自分で判断し、自分で生活を支える方向へ少しずつ移っていく時期です。職業の選択は、社会からの要請と、本人の「こうなりたい」という願望が重なって生じる課題です。
社会の一員としての価値観
- 市民として必要な知的技能と概念の発達
- ニュースを見て、社会の出来事について自分の意見を持つ
- 社会的に責任のある行動を望み、成し遂げること
- 地域の清掃ボランティアに、自分から参加する
- 行動の指針となる価値観や倫理の体系の獲得
- 「自分は何を大切にして生きたいか」を考える
社会の仕組みを理解し、自分なりの価値観をつくることも、この時期の課題です。ここには、個人の価値観と願望から生じる課題が多く含まれています。
壮年初期(18〜30歳ごろ)の発達課題

壮年初期は、学校を卒業して社会に出て、仕事や家庭など、大人としての生活を築き始める時期です。
主なテーマは、
- パートナーとの生活と家庭づくり
- 仕事と社会での居場所
になります。
パートナーとの生活と家庭づくり
- 配偶者の選択
- 結婚を考える相手と、将来の暮らし方について話し合う
- 配偶者と暮らすことの学習
- 家事の分担を、二人で話し合って決める
- 第一子を家族に加えること
- 子どもの誕生に合わせて、生活のリズムを組み直す
- 子どもの養育
- 夜泣きに対応しながら、子育てのやり方を覚えていく
- 家庭の管理
- 家計簿をつけて、生活費をやりくりする
ハヴィガーストの時代のアメリカでは、この年代で結婚して子どもを育てることが一般的な人生の流れと考えられていたため、家庭に関する課題が多く並んでいます。
仕事と社会での居場所
- 職業に就くこと
- 就職して、仕事の進め方を一から覚える
- 市民としての責任を引き受けること
- 選挙で投票する
- 気の合う社会集団を見つけること
- 職場や趣味の場で、気の合う仲間を見つける
社会人として働き始め、家族以外にも自分の居場所となる人間関係を築く時期です。学生時代の友人関係とは別に、大人としてのつながりを新しくつくることも課題に含まれています。
中年期(30〜60歳ごろ)の発達課題

中年期は、仕事や家庭で責任ある立場を担う一方で、子どもの自立、親の老い、自分の体の変化に向き合う時期です。
主なテーマは、
- 社会と経済の責任
- 家族との関係の変化
- 自分自身の変化への対応
になります。
社会と経済の責任
- 大人としての市民的・社会的責任の達成
- 自治会やPTAの役員を引き受ける
- 一定の経済的な生活水準を築き、維持すること
- 子どもの教育費や老後に備えて、貯蓄の計画を立てる
社会のなかで、支えられる側から支える側の役割が増えていく時期です。家計についても、目の前の生活だけでなく、長い先を見通して整えることが求められます。
家族との関係の変化
- 10代の子どもが、責任ある幸せな大人になれるよう援助すること
- 進路に悩む子どもの話を、口を出しすぎずに聞く
- 配偶者と、一人の人間として結びつくこと
- 子どもが手を離れたあと、夫婦で過ごす時間を見直す
- 年老いた親への適応
- 親の通院に付き添い、介護について調べ始める
子ども・配偶者・親との関係が、それぞれ形を変える時期です。子育ての中心が「世話をすること」から「自立を見守ること」へ移り、親に対しては支える役割が増えていきます。
自分自身の変化への対応
- 大人としての余暇活動の充実
- 仕事以外に、長く続けられる趣味を持つ
- 中年期の生理的な変化の受け入れと適応
- 老眼や体力の低下を受け入れ、生活のペースを調整する
体の変化は、身体の成熟(加齢)から生じる課題です。仕事や子育て以外の時間をどう過ごすかも、この時期から考えておく課題とされています。
老年期(60歳ごろ以降)の発達課題

老年期は、体力や健康、仕事、家族関係など、さまざまな変化や喪失に適応しながら、新しい生活を築いていく時期です。
主なテーマは、
- 体と暮らしの変化への適応
- 人とのつながりと社会での役割
になります。
体と暮らしの変化への適応
- 体力や健康の衰えへの適応
- 体調に合わせて、無理のない予定を立てる
- 退職と収入の減少への適応
- 定年後、年金の範囲で暮らせるよう支出を見直す
- 満足のいく生活環境を整えること
- 段差の少ない住まいに移る
老年期の課題には、「適応」という言葉が多く使われています。衰えや変化をなくすことではなく、変化を受け入れたうえで、自分に合った暮らし方を整えることが課題とされています。
人とのつながりと社会での役割
- 配偶者の死への適応
- 配偶者を亡くしたあと、一人での暮らし方を少しずつ整える
- 同年代の人たちとの親しい関係を築くこと
- 地域のサークルで、同年代の友人と定期的に集まる
- 社会的・市民的な義務を引き受けること
- 地域の子どもの登下校の見守り活動に参加する
大切な人との別れを経験しやすい一方で、同年代の仲間や地域とのつながりが、新しい支えや役割になります。仕事を離れたあとも、社会の一員としての役割を持ち続けることが課題に含まれています。
まとめ
- 発達課題とは、人生のそれぞれの時期に生じ、その時期に達成が期待される課題のこと
- ある時期の課題をうまく達成できると、その後の課題の達成にもつながると考えられている
- ハヴィガーストは人生を、乳幼児期・児童期・青年期・壮年初期・中年期・老年期の6つの段階に分け、段階ごとに具体的な課題を示した
- ハヴィガーストは、発達課題は身体の成熟・社会からの要請・個人の価値観と願望の3つの要因から生まれると考えた
- ハヴィガーストは、3つの要因がそろった時期を「ティーチャブル・モーメント」として重視し、課題を最も学びやすい時期と考えた
人生を段階に分けて捉える理論としては、エリクソンの心理社会的発達理論も知られています。
参考文献
- R・J・ハヴィガースト(著)荘司雅子(監訳)(1995)『人間の発達課題と教育』玉川大学出版部




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